メニューを考えるうえで基本的なことを別の項でご説明しましたが、ここでは一歩踏み込んでお話したいと思います。当たり前の話ですが、飲食店の本質は料理を提供することですから、味が良いことが一番の成功要因です。どれだけお店の雰囲気が良くて、サービスが素晴らしいものでも料理がいまいちではお客さまはまた来ようとは思いません。サービス力を磨いてウリにしたお店は、そのサービス水準を維持することが難しいです。なぜなら、サービス力は人によるところが大きすぎるのです。マニュアルを作っても人が変われば同じ水準を維持できるとは限りませんし、常に指導することもできません。逆に、メニューはレシピをしっかり守れば再現性が高いため、人が変わっても同じ水準で提供することができます。ですから、飲食店で競争力を上げようと思ったらメニューを強化するべきなのです。
お店にはお客さまを呼び込むための看板メニューが必要です。お客さまにアピールする商品なので、奇をてらった料理やその時流行っているメニューにしがちですが、それは間違いです。まず、奇抜なメニューは安定した売上を期待できませんし、流行しているメニューはそのブームが去ってしまえば競争力を失います。ブームは所詮一過性のものなので、長続きはしません。奇抜なものではなくベーシックなメニューで他店と差別化をはかり、看板メニューに育て上げていくことが重要です。基本的な料理で差がつくのは「食材の良さ」と「味付け」です。地道に自分の足で良い食材を探したり、試行錯誤してどこにも負けない調理法を見つけたりといった努力がかかせません。その努力ができなければ差別化は難しいでしょう。
おいしいメニューを開発するためには、とにかくいろんなおいしい料理を食べる必要があります。天才的な料理人でもない限り、普通の人は過去に食べた料理からヒントを得て、または、真似るところからメニューを開発します。いろんな味を知り、舌が経験を積むことで味覚が磨かれていきアイディアが生まれてきます。時間があれば積極的に評判になっているお店や良い食材を使っている高級なお店を食べ歩きましょう。お金はかかりますが、味覚を磨くための投資だと思ってどんどん食べるべきです。そうした努力もメニュー開発には必要なのです。
自分でメニュー開発できれば一番いいのですが、一流の料理人のような技術や舌を持つには時間がかかりすぎます。かといって、一流の料理人を雇うにはコストやマネジメントの面からも難しいでしょう。ではどうすればよいのかというと、メニュー開発を委託するのです。自分で目を付けた料理人にレシピを開発してもらい、買い取ることが商品力アップの近道です。そのためにもいろんなお店に通い、腕のいい料理人を見つけなければいけません。また、その時に自分の味覚を磨いておけば一流の料理人と対等に料理の話をすることができ、信用を得ることができます。
お店のコンセプトを考えるときにターゲット層をどうするかも考えます。メニューもそのターゲット層に合うものにする必要があります。例えば、男性と女性では当然メニュー設計も違ったものになります。男性は食べ物に関して保守的ですので、居酒屋であれば枝豆やたこわさび、唐揚げなどある程度なじみのあるメニューがあると安心します。その一方、女性はいろんな味を楽しみたい方が多いので、一皿のボリュームと価格を抑えめにして品数を増やすようなメニュー設計がいいでしょう。ワンプレートに少しずつつまめるような料理を盛り合わせた商品も人気です。
また、利用動機によってもメニュー設計は変わってきます。サラリーマンがランチに日常的に利用するようなお店と特別な日に利用するお店ではラインナップが変わります。オフィスビル街のランチでは無難な味付けで毎日食べても食べ飽きないようにするべきです。反対に高級レストランなどでは非日常感を演出するために味付けや盛り付けを凝ったものにして、「特別な料理を楽しむ」体験をしてもらわなければなりません。
飲食店ではお客さまに長くリピートしてもらえるように定期的にメニューを改正するべきです。メニューを改正するにあたって最も重要なことは客観的なデータに基づいて行うということです。「やってみたいメニューがある」「これはおいしいと自信を持って言える」というお店側の感覚ではなく、「お客さまに支持されているメニュー」つまり「売れているメニュー」を基に考えていきましょう。その際に指標となるのが「選択食数」です。算出方法は次式のとおりです。
出品数 ÷ 客数 × 100
選択食数はお客さまが100人来店したときに何食売れるかという数字になります。この数字によってメニューをランク付けしていきます。
ランク |
選択食数 |
改正方針 |
---|---|---|
Aランク |
10以上 |
人気メニュー→さらなるブラッシュアップ |
Bランク |
3以上10未満 |
一般メニュー→もう一工夫 |
Cランク |
3未満 |
不人気メニュー→削除候補 |
Aランクに属しているようなメニューはすでに人気メニューのためそのままにしがちですが、より強いメニューにするために優先的にブラッシュアップしていきましょう。さらなる商品力強化のチャンスです。逆に不人気メニューをテコ入れしても、そもそも売れていないのでお客さまが食べてくれる機会が少ないです。より効率的なメニュー改正は売れているメニューをさらに売れるようにすることです。