飲食業は新規参入率の高い業種です。繁華街などでは1年の間にどんどん新しいお店ができていくのを目にしているのではないでしょうか。それはつまり、廃業しているお店もそれだけあるということです。日本政策金融公庫が2011年に融資を受けて開業した企業に対して、2015年まで継続して調査を行っています。その結果によると、2015年の業種別廃業状況では「飲食店・宿泊業」が18.9%でトップでした。その原因のひとつは、やはり未経験者による開業が多いことでしょう。ラーメン好きが高じて、おしゃれなカフェをやってみたい、というような安易な動機で始めてみたものの経営に行き詰まり、資金繰りがうまくいかず廃業に追い込まれるケースがほとんどだと思います。未経験者はなぜそうなってしまうのでしょうか。それはお金の管理ができていないからです。店舗経営には売上、利益、経費、損益などいろんな数字を管理する必要がありますが、数字を意識しないとどんぶり勘定になってしまいがちです。飲食店で成功するためには、儲けのしくみを知り、お店のあらゆる数字を管理していかなければならないのです。
飲食店の収入源は言わずもがな「売上」です。そして売上は、次式で計算できます。
客単価 × 客数 = 売上
「客単価」はお客さま一人当たりの支払う平均金額で、「客数」はお客さまの数です。例えば、ラーメン屋や牛丼店などでは客単価が低いので、回転率をあげて客数を増やします。逆に、高級フレンチなどでは1日に来る客数が限られますので、その分客単価を上げる努力をします。
当然ながら、売上イコール利益ではありません。飲食店には原材料費や水道光熱費、人件費などがかかってきます。これが、「経費」です。
売上 - 経費 = 利益
いくら売上がよくても、経費が多くかかってしまえば、その分利益は減ってしまいます。コストダウンをはかりつつ、売上をあげていかなければ儲かることはできないのです。そういったお店の数字を財務諸表の一つである「損益計算書(売上収支表)」で管理していきます。これはお店の開店資金の融資を受ける際の返済見込みを示す資料ともなりますので、項目毎に正しく算出しなければなりません。どんなものか、簡単な例をもとに見ていきましょう。
喫茶店Aの1か月の損益計算書
A店の基本情報 |
駅前ビルの1Fテナント 延べ面積 15坪 スタッフ マスター1名 アルバイト1名 |
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①売上高 |
250万円 |
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②売上原価 |
80万円 |
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③粗利(売上総利益)(①-②) |
170万円 |
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④経費 |
人件費 |
60万円 |
テナント料(家賃) |
25万円 |
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水道光熱費 |
15万円 |
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その他経費 |
30万円 |
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合計 |
130万円 |
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⑤営業利益(③-④) |
40万円 |
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⑥営業外損益 |
支払利息 |
12万円 |
⑦経常利益(⑤-⑥) |
28万円 |
これはある喫茶店Aの1か月の収入と支出を表にした損益計算書(売上収支表)です。80万円で仕入れた原材料で250万円の売上を出しています。売上から原材料費(売上原価)を引いた数字が「粗利(売上総利益)」です。A店の場合は、粗利が170万円となります。
売上高250万円のうち、原価が80万円なので、原価率は32%です。飲食店経営セミナーなどではよく、「原価率は30%以下を目指しましょう」と言われています。間違いではありませんが、それは商品単体で考えるのではなく、トータルで考えなければいけません。例えば、A店で宮崎県産高級マンゴーをふんだんに使ったタルトを1000円で販売するとします。原価は600円で原価率は60%にもなります。これだけ見ると利益がほとんど出なくなるような気がしますが、そのタルトはコスパがよくインパクトもありお店の看板メニューになっています。口コミでも評判となり、お客さまを呼び込んでくれるキーアイテムとなっているのです。ですから、このタルトの原価率だけを見て販売価格を上げたり、マンゴーの質を落として原価を下げることは経営判断として良くありません。他の商品と合わせてトータルでバランスをとっていくようにするべきでしょう。
粗利から経費を差し引いた数字が「営業利益」です。経費はお店を運営していく上で必要なお金で、人件費やお店の家賃、水道光熱費、その他経費(販売促進費、通信費、クリーニング代、その他雑費など)などがあります。営業利益は純粋な飲食店の本来の業務で得た利益であり、飲食店経営では一番重視しなければいけない数字です。そこから開店資金として借りたお金を返していきます。その時借りた金額にもよりますが、売上高に占める営業利益の割合(利益率)が10~15%であれば、健全な店舗経営ができると言えるでしょう。
本来の営業活動以外で生じる収益や費用もあります。開店資金の融資に対する利息であったり、売上割引などです。これらを「営業外損益」と言い、営業利益に営業外損益を足したものが「経常利益」です。A店の場合、支払利息としてー12万円の営業外損益がありますので、経常利益は28万円となります。